以前,このブログで紹介した
川端裕人さんの気象エンタメ小説
「雲の王」
気象を専門にしている僕にとって,
臨場感・現実感があり過ぎて,
一般向けになんと感想を書いていいか,
なんとなく書きにくかったんです.
だって,マニアックなところに
スゴく感心してしまったりしたので,
そんなん普通の人には伝わらないでしょーし,
っていう.
小説の主人公にこれほど入れ込むのも,
やっぱ気象を専門にしてるからかな,
という.
美晴も知り合いにいたような気にすらなってしまいました.
いずれも現実に僕がよく出入りしているところ.
しかも,それぞれの登場人物たちが,
実際に知ってる人達のように思えてしまい,
否応なく引きこまれてしまうのです.
でもあえて専門的な観点から見た感想も,
いいか,ということで,ちょっとだけ.
この小説で出てくるプロジェクトや予報技術などは,
ものすごく現実的にきちんとした知見にもとづいて描写されています.
ひょっとすると一般読者は気にしないかもしれないような
細かいところまで丁寧に描写されていて驚きました.
この豪雨の話,あのときのやつだよね.
1999年の練馬であった・・・
僕,実際その数値シミュレーションを京大にいたとき,
やりましたから,その正確な描写のすごさは,余計に感じました.
この台風を飛行機で追いかけるプロジェクト,
俺たちやってたあれのことじゃん.
これは,本当に最先端の技術的挑戦を扱ってて,
遠すぎる未来の空想でもなく,過去のしっかりした知見からでもなく,
小説にするには一番難しそうに思えますが,
よくぞ題材にされたなあ,と.
うわ,マッデン・ジュリアン・振動(MJO)なんてマニアックな現象まで!
え?MJO,ナニソレ?ですか?
えっとですね,僕は実は専門の一つなんですが,
MJOは,熱帯に1-2ヶ月に一度の頻度で現れる雨雲の大集団で,
インド洋でできて東へゆっくり移動していく,というフシギな性質を持っています.
だって,熱帯は,偏東風で,常に東風が吹いているので,
大体のものは,東から西へ移動していきます.
なのに・・・なんで,東へゆっくりと移動するのか,
仕組みには謎が多いのです.
雨雲の大集団の大きさは,数千km.
積乱雲が雲の王,キング・オブ・クラウドなら,
MJOは,まさに,雲の王の一族,
ロイヤルファミリー・オブ・クラウド.
ってな感じで,こんなマニアックな現象まで,
ちゃんと出てくるべきところできちんと登場するので,
専門知識のある人でもとても歯ごたえがあります.
ただの気象エンタメ小説じゃないな,
本気だな,って専門知識がある人ほど,
余計にハマるはずです.
あ,もちろん,専門知識がない人にも,
エンタメ小説として楽しめると思いますよ.
でも,この本に関しては,職業柄,
客観的になれないので,
もし,専門知識なしで既に読んだ方がおられたら,
是非感想教えてください.
これを専門知識なしで読んで,どう感じるのか,
かなり興味があります(・∀・)