「雨はどうやってできるの?」という素朴な疑問を人は古代から繰り返し抱き、今なお検索フレーズで300件以上が完全一致でヒットしている。
この純粋な疑問のパワーが如何に強力であり続け、結果として、科学が古代からどのように論争を繰り返してより良い結論に近付こうとし続けてきたのか、その壮大なストーリーが綴られるこの本は、知識や見解や課題だけを解説するものとは完全に一線を画した傑作である。
科学が世界で最も信頼される理由は、単なる思い込みの科学信仰ではなく、「決して断絶せずに失敗も成功も含めて知恵を積み上げてきた歴史の長さと連続性」にこそ、信頼の根拠が置かれているとモテサクは思う。
多様な価値観の人々が共有できる事実から出発して、自由に失敗し、成功し、論争し、検証を重ねる事によって、1人の人間には、決してなし得ない全体としての謙虚さを維持しているのが、科学だ。
科学だから盲信すればいいのではなく、科学だからこそ謙虚さを要求され続けるが故に生まれる信頼感があるという事。
それが、「雨はどうやってできるのか?」というシンプルな疑問を300ページも要してひたすら古代からどのように挑まれてきたのかが描かれる、すごい本です。
三隅さんの人柄通り優しい筆致ながら、科学とはこういう事だ、という迫力と凄みの詰まった渾身の一冊。