一般向け科学読み物を書く難しさを克服した方法

このブログでも何度かご紹介している一般向け科学読み物「梅雨前線の正体(東京堂出版)」について、今日は執筆過程の一つとして「一般向けに分かり易く書く難しさ」についてお話します。 実は,本の執筆を始めた当初,私は,梅雨前線の研究についてどのような整理の仕方や解説の仕方をすれば「一般向けに分かり易い」のか,全く見通しを持てずに途方に暮れてしまっていました.私が生まれる前から何十年も行われてきた膨大な研究の知見を前に,力が入りすぎてしまっていたのです. 一般的に言われていること,ちょっと踏み込んだ話,最先端の研究の現状,どれについてもそれぞれ一冊になるほど多くの知見があり,課題も山のように残されています.しかし,詳しく書き過ぎれば途中で疲れてしまう人の顔が浮かび,あまり表面的な記述だけになっても物足りなさを感じる人の顔が浮かびました.「一般向けに易しく解説」と思って色々と書いてみるのですが,自分の中での「一般」が漠然とし過ぎていて,どの部分の解説にも全く自信が持てなかったのです. そんな情けない気分になりかけていたとき,答えをくれたのは,最近知り合った何人かの大学生たちでした. 「茂木さんの本なら読んでみたい」 何気なく,あるいはお世辞で言ってくれたのでしょうが,僕には涙が出るほど嬉しく,力の湧く言葉でした.そして,伝えるべき相手,つまり, 本の中で一番「おもてなし」をすべき相手の顔 がはっきりと思い浮かぶようになり,ようやく止まっていた筆が進み始めました. そうして筆が進み始めると,僕はできるだけ執筆の進展を周囲に伝え,原稿をできるだけ多くの方々に点検してもらうようにしました.すると,想像していたよりも遙かに多くの反響と意見が集まりました.紙に赤ペン,メール,Googleドキュメント,Facebook,Twitterなど,なんらかの形で反応を示して下さった方は100人以上にのぼり,ある意味でそうした方々との共著とも言えるものが書けたように思います. その反応が執筆の助けになったのも,全ては, 相手の顔が見えている からです.顔が見えている反応だから,コメントに込められたニュアンスだけでなく,その人だったらこういう話も喜ぶんじゃないか,という新しいアイデアもどんどん湧いてきて,ますます筆が進むようになりました. そんな様々な形でのやりとりを重ねながら書き進めた結果, 「居酒屋で美味しい料理をつつきながら,大学生たちと梅雨に関わる色々な話をしている」 といったレベルでの言葉があちこちに並ぶ,我ながらとても躍動感のある仕上がりになりました.居酒屋で他人が話しているのを聞いて万人が面白いとはもちろん思いませんが,少なくとも楽しそうに話しているなあ,とは思ってもらえるんじゃないでしょうか. 結局,こうして無事に書き上げてみて分かったのは, 顔の見えない「一般」に向けて書く,ということは「誰のためにもならない」 ということです.年齢も性別も職業も具体的にイメージできない「一般」に向けて書いてみても,結果的に「誰にも響かない」文章にになってしまい,自分で読んでいても躍動感の欠片もなくて,実につまらないのです.自分ですら楽しくない後ろ向きの気持ちで書いた文章など,誰も喜ばないし,自分を含めて誰も得をしないのが分かっているから,そんな非生産的なことに筆が進むはずもなかったわけです. これと全く同じことをきちんと理詰めでまとめて精神科医の方が説明された本も出ています(僕が苦しみ終わった後に出版されたので,僕は遠回りしてしまいました). SNSの超プロが教える ソーシャルメディア文章術 作者: 樺沢紫苑 出版社/メーカー: サンマーク出版 発売日: 2012/04/04 メディア: 単行本(ソフトカバー) クリック: 90回 この商品を含むブログ (7件) を見る 僕の周辺では,「一般」に向けて書いたり,講演で話したりしようとして「伝わらない・手応えがない・だから楽しくない」といった,同様の悩みを抱えているように見受けられる人がたくさんいます. このブログは,そうした何人もの人達の顔を具体的に思い浮かべながら書かせて頂きました. 同じ悩みを持ったことのある者として,この文章が何かの一助になればいいな,と思います. そしてその人達なりの別な解決策がもし見つかったときには,それも一緒に共有できたら嬉しく思います.

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「梅雨前線の正体」へご招待

「事実は小説よりも奇なり」ならば「科学も小説より奇なり」!! 付き合いにくい梅雨を楽しむための見方とは? 不快を愛着に、不思議を納得に、知識を理解に変える旅へご案内します。 第一章  〜大学に入るまでずっと感じてきた苛立ちと疑問に少しずつ納得し始める物語〜 第二章  〜大学院時代にでかけた観測をきっかけにその姿を改めて見直していく物語〜 第三章  〜研究員になってからめぐりあった三つの物語〜 2012年6月、東京堂出版から全国の書店で発売。 税込み定価2520円です。

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「梅雨前線の正体」で取り上げたトピックの原作リスト 

「梅雨前線の正体(新田尚 監修 茂木耕作 著 東京堂出版から2012年6月刊行予定)」 は、一般向けの読み物と言うことで、英語論文は、本文中に掲載していません。 ただ、中には、原作を読むことに挑戦してみたいと思って頂ける方もおられるかもしれないので、ここに原著論文リストを掲載しておきます。 第2章「梅雨前線の姿」の原作 茂木耕作,2006:東シナ海上の梅雨前線南側における降水系の形成機構〜水蒸気前線の発見〜―2005年度山本・正野論文賞受賞記念講演―. Vol. 53, No. 8, 2006, 3-17. 茂木耕作,2010:新用語解説「水蒸気前線」. Vol. 57, No.1, 55-56. Moteki, Q., H. Uyeda, T. Maesaka, T. Shinoda, M. Yoshizaki, and T. Kato, 2004a: Structure and development of two merged rainbands observed over the East China Sea during X-BAIU-99 part I: Meso-beta-scale structure and development processes. J. Meteor. Soc. Japan, 82, 19-44. Moteki, Q., H. Uyeda, T. Maesaka, T. Shinoda, M. Yoshizaki, and T. Kato, 2004b: Structure and development of two merged rainbands observed over the East China Sea during X-BAIU-99 part II: Meso-alpha-scale structure and build-up processes of convergence in the Baiu frontal region. J. Meteor. Soc. Japan, 82, 45-65. Moteki, Q., T….

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理系のためのクラウド知的生産術 (ブルーバックス) [新書] (堀 正岳 著)

Facebookより転載。 理系のためのクラウド知的生産術―メール処理から論文執筆まで (ブルーバックス) 作者: 堀正岳 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2012/01/20 メディア: 新書 購入: 7人 クリック: 69回 この商品を含むブログ (24件) を見る 全てを取り入れることはしなくて良いと思うけど、全ての研究者に読んで欲しいと強く思う本。 特にこれから財産を築き上げていく学生や若手研究者は避けずに向き合って見て欲しい。 堀正岳さん、本当に有り難う、な本です。 堀さんのような方が、自分の凄く近い研究分野で活躍しながら、こうした本まで書いてくれていることは、ものすごく幸運だと思う。 もっと言えば堀さんが所属している全ての団体は、間違いなく幸運な団体だと思う。 P130 ・(雑多なやるべき作業を)頭の外(クラウド)に追い出すことの大切さ P175 ・(一人でこもらずに)ソーシャルな研究者(として分野全体に貢献できるよう)になろう

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「自分ホメ 毎日が100%輝く魔法の言葉」谷口祥子 著

またまたFacebookからの転載。 自分ホメ 毎日が100%輝く魔法の言葉 作者: 谷口祥子 出版社/メーカー: 集英社 発売日: 2012/01/26 メディア: 単行本 クリック: 14回 この商品を含むブログ (2件) を見る 自分を褒めまくろう、自分の短所より可能性に目を向けるだけで本当に人生が変わる、という本。 自分がもしポジティブな方だと思っていても、気付かないうちに内心でネガティブになるきっかけを自分で作ってしまっていたりします。 その具体的な心情や感想や言葉の使い方を丁寧に拾って、ポジティブな方向に向く言葉に自然に置き換える方法が書いてあります。 心がけ、というだけだといつしか曖昧になって忘れてしまうので、きちんと儀式として型を作っておくのも大事なんだな。 これからは授業の前に「もてさくの授業はめっちゃ楽しくてためになってすっきりする!!」ってトイレでつぶやいてからのぞもうと思う(^_^)

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「授業の腕をあげる法則」向山洋一 著

Facebookへ投稿した記事の再掲です。FBだけに閉じとくのもったない、って後から思うこともあるもんですね。こういうのもブログネタになるもんなのか、と初めて気付きました。 授業の腕をあげる法則 (教育新書 1) 作者: 向山洋一 出版社/メーカー: 明治図書出版 発売日: 1985/06/01 メディア: 新書 購入: 8人 クリック: 33回 この商品を含むブログ (8件) を見る 非常勤講師で行っている東京学芸大教育学部の学生が読んでいた本のタイトルが気になり、購入しました。 指示する、とはどういうことなのか、きちんと紐解いている導入だけでも読む価値があります。 アマの技術:やることだけを言う。「ゴミを拾いなさい!コラ、静かにして、早く始めて!!」 黒帯の技術:趣意とやることを言う。「これから教室を綺麗にします。ゴミを拾いなさい。」 プロの技術:趣意を言って、やることを任せる。「教室を見回してごらん。もう少し綺麗にしたいね。自分がこうしたいと思うことをやってごらん。時間は5分です。」 プロの技術を本当に使いこなせている教師は、全国でもほんの一握りしかいないのだという。 想定は学校の教師としての技術が記述されていますが、大学での学生指導として、親として、先輩や上司としても、普遍的に使える技術だと思います。

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茂木のプレゼンはYoutubeで公開しています。

そんな僭越なことを言いながらも自分はどうなのかというと、やろうとしているのにできない、でもやろうとしなかった頃よりはマシ、というくらいです。 下記、これまでYoutubeに一般公開した動画一覧。意外と少ないなあ。他の人のもアップしてたり、自分のも限定公開にしてたり、で僕のYoutubeアカウントには20本くらいあるんですが、まとめてみると一般公開できるのは3本だけでした。録画はiPhoneやMacBook AirのiSightカメラ、録音のみのときはiPhoneのボイスレコーダーで録ってスライドにiMovieで合わせる、という感じです。 90 seconds talk for the poster presentation in 6th JFFoS 2012 held at Nice, France. “Where should we enhance weather observations for the weather forecast?” 「海洋混合層変動が決める東シナ海上の梅雨前線の季節進行」@長崎大学(2011年度九州沖縄西南支部合同シンポジウム[海洋学会・海洋気象学会・水産海洋学会]) ‎2011年度日本気象学会秋季大会スペシャルセッション「東アジアモンスーンと黒潮ー中緯度帯機械用相互作用の再発見に向けてー」11月18日名古屋大学野依記念学術交流館 「海洋混合層変動が決める東シナ海上の梅雨前線の季節進行」茂木耕作(海洋研究開発機構)

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Facebookでの研究交流観察記

Facebook上の交流を学会の懇親会と見立てて、「日常的ユル学会状態」にしよう、と思い立ってから、半年以上が過ぎました。 「日常的ユル学会状態」とは、通常年に1,2回だけ行われる数日間の学会で出会う普段は遠く離れている研究仲間との研究談義をFacebook上で肩肘はらずに日常的に交わしている状態、ということをイメージした僕の造語です。 ビジネス利用が話題になり日本でのユーザーが700万人近くになっているFacebookですが、僕は研究者の一人として、研究活動にも非常に親和性がある、と感じています。 僕の場合、僕の所属する気象学会、地球惑星科学連合、まだ所属してないけど関わりの多い海洋学会の面々を中心にフレンド数が300弱(うち高校時代の友人などは1割弱)。 ほとんどが日本人ですが、観測プロジェクトや国際会議で意気投合した人とは、国籍問わずフレンドリクエストを受け付けて今に至ります。 そうした研究仲間と学会中に行く飲み屋やレセプションでのくだけた話からムキになった議論まで、年に多くて数回じゃあ全然足りない!というのをFacebookで日常化しちゃおうというのが、僕のやりたかったことでした。 今までのところ、自分で当初期待していた以上にその「日常的ユル学会状態」が実現できていて、たった半年でこれだけのことをこれだけの人と本当に深く共有できるものなのか、と正直驚いています。 何か研究に関わるおっ!と思ったこと(面白そうな会議、面白そうなデータ、使いやすそうなツールなど)をお互いウォールに情報提供すれば、負担を増やさずに研究交流の密度を上げることができます。 公式・非公式のプレゼンや授業など、録画してYoutubeにアップしてリンクを知っている人だけ見られるステータスにしておいて、Facebookの限定された範囲で公開する、ということもできます。自分では気付かないことをコメント貰える価値は学会発表に匹敵するほど大きなものですし、また、単純に「いいね!」と複数の人からポチって貰えるだけで次へのモチベーションが倍増するという手軽で非常に大きな棚ぼた効果もあります。さらにそうしたことを積み重ねておくと、学会などで生身で会って話すときの内容もより一層濃くなります。「実際に会うこと」自体の価値もWeb上での下地を醸成しておくことによって上がる、というのが理想だとずっと思っていたのですが、Facebookは、かなりその実現に適している気がします。 チャット機能も何気に便利です。チャットだけなら、Gmailなど他にいくらでもありますが、Facebookのウォール上でさっきまで話題にあがっていたことをネタにして、特定の人とちょっと込み入った話、なんならちゃちゃっと済ませて実現しちゃえそうな話をする、ということがしばしばありました。これでコミュニケーションがとれるようになると、劇的に早く用事が済んでしまう場合があり、これをメールでやろうとしてたら一週間以上かかっていそうだな、と思うような事が何度もありました。 実名であること、信頼した人だけに記事を公開していること、そして写真とはいえ相手の顔がしっかり見えていること、このあたりが他のメディアでは起こらない交流の深まりと迅速さを生み出している気がします。 研究者同士の交流だけでなく、研究者がこれまで苦手にしていた、アウトリーチという側面でも公開できる情報をかいつまんでFacebookページなどに出していけば、かなり手軽にできますし、一般の方からのフィードバックも安心して受け付けられるかもしれません。 まだ所詮半年でしかないので利用できていない機能もたくさんありますが、少なくともメールでやりとりするよりは圧倒的に楽で速くて深い、という部分はかなり見えてきました。 そんな今後の「日常的ユル学会状態」に我ながら期待しています。

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僭越なプレゼン指南

これまでいくつか紹介してきたプレゼン本を総合して、自分のプレゼンだけでなく、目上の方にまで僭越な指南をしてしまうようになったワタクシ。一般的なセオリーも面白いですが、実話を名前伏せで紹介、っていうのも面白いかなと思い、紹介します。しかし、まあ、読み返せば読み返すほど我ながら僭越。でもその後の結果はともかく後悔はしてません。自分の理解を深めるためにも伝えて良かったと今でも思います。 メッセージ ———- ○○さん、茂木です。 ▲▲さんのときに送った最終アドバイスを転送しておきます。 練習の参考になさって下さい。 武道でいえば、型のようなものです。 目標は、「審査者が事前配付資料に目を落とす気にならないくらい引き込まれる」ことです。 #事前配布資料に目を落とすということは、相手は話に退屈しています。良い評価はあまり望めません。耳でちゃんと聞いてる、と言うつもりかもしれませんが、ならばわざわざスライドを映す必要などなく、その資料に沿って話した方が、見て(読んで)いるものと聞こえてくる情報がよりマッチして伝わるでしょう。でも、そういう場ではありません。 *因みに僕は、発表している間、事前資料から一切顔を上げて貰えず、一度も目を合わせて貰えず、残念な結果に終わったという思い出すだけで本当に口が苦くなるような経験があります。 転送メッセージ ———- ▲▲先生、茂木です。 おはようございます。 発表を始める際の助言を申し上げます。これで最後です。 1.PCをセット・画面が写ったら、「床のどの場所に立つか、意識的に決める」。 #なんとなく始めてしまうより、自信のありそうないでたちが作られます。 2.司会者の案内を受けたら、「胸を張って、聴衆を見ながら3つ数える『イチ・ニ・サン』」。 #聴衆は、話し手に目を合わされた時点で、無意識に信頼しようとし始めます。3つの間をとって、会場を見渡すことで、会場の雰囲気の主導権を取ることができます。 3.最初の一礼をきちんと行い、「少し微笑むくらいの表情で『■■■■■■■の▲▲▲▲です。』」 #聴衆の無意識の信頼が、おだやかな表情のきちんとした自己紹介で確信に変わります。これで、聴衆は、自分の立場にかかわらず、▲▲さんの話に味方をしようとします。 最初の二枚のスライドは、一度も振り返ることなく、すべて言い切りましょう。 #信頼できる代表者は、自分の課題名をいつでもすらすら言えるはずです。 #多くの協力者を引きつける魅力的な代表者は、課題の意味するところをすらすら述べることができます。 三枚目以降は、リハの通り、自由に躍動感を重視して話します。 一番最後に課題名のスライドに戻ったときの、終わりの決めぜりふは、決めておく方が、気持ち良く終われます。 例: ということでですね、、、、(最後のスライドへ) (課題スライドは絶対に見ず、聴衆に最後の訴えをする。選挙演説のイメージ。) 以上のようにして、私は、この「□□□□□□における□□□□□と□□□□□の□□構築」を成し遂げるべく、課題提案をさせて頂きました。 この課題の完遂によって、将来の□□□□を『もっと』よくしたい、 ひいては、それが日本の未来を『もっと』よくすることになるはずです!! この?年間で、このプロジェクト『絶対に!!』成し遂げる、そう決意しております。 #最後は、ちょっと抽象的でクサイぐらいが情熱的な印象を与える。情熱は全てのテクニックを超える力があります。 (間) 以上です。 (間) ありがとうございました。 #聴衆は、冒頭から審査を忘れて▲▲さんの話に引き込まれ、 #事前配布資料に目を落としながら退屈している人は一人もいません。 #みんな▲▲▲▲が目を合わせて提案してくる明るい未来に身を乗り出しています。 #最後はヒーローの演説に感動しているはずです。 #どんな立場の人でもハッピーエンドの物語が大好きなのです。 プレゼンの上手な話し方 作者: 福田健 出版社/メーカー: ダイヤモンド社 発売日: 2008/12/12 メディア: 単行本 クリック: 2回 この商品を含むブログ (2件) を見る スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン―人々を惹きつける18の法則 作者: カーマイン・ガロ,外村仁解説,井口耕二 出版社/メーカー: 日経BP社 発売日: 2010/07/15 メディア: 単行本(ソフトカバー) 購入: 122人 クリック: 3,636回 この商品を含むブログ (293件) を見る ガー・レイノルズ シンプルプレゼン 作者: ガー・レイノルズ,日経ビジネスアソシエ 出版社/メーカー: 日経BP社 発売日: 2011/03/31 メディア: 単行本 購入: 5人 クリック: 71回 この商品を含むブログ (22件) を見る

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楽しい議論の作り方

気象に限らず、研究を行っている者にとって、「議論する」ということは、最も重要な活動の一つ。 これを如何に有意義なものにできるか、如何に楽しめるかは、研究を続ける以上、永遠のテーマです。 論文の文章を練り上げる過程での文字を通じた議論は別の機会にして、学会等で生身の声を通じて行う議論について考えてみます。 議論が楽しいなんて研究者たるもの当たり前、と言いたいところですが、いつも議論の輪にうまく入れないとか、疑問はあるけど発言に値するものなのかとか、悶々としてるうちに楽しめずに終わることも多いものです。 僕が思うに、うまく発言できない、議論の輪に入れない、っていうのは、大概参加人数が多くて、質疑の時間が短いときです。 だからまず、質疑というか議論に使える時間を十分に長くとっておく、というのは第一条件。どうしても企画者側になると、使える時間を講演数で割って、、、というプログラム作りをしてしまうことが多いのです。講演時間を短くしてでも議論の時間を十分に確保する、というのは、「場が持たなかったらどうしよう」という漠然とした不安から結構勇気がいります。でも、初めて聞く話に30秒で本質をついた質問をして、それに発表者も見事な回答を10秒でまとめる、なんてのは不可能なので、本当に議論が大事だと思うなら十分に時間をとることを考えるべきです。場合によっては「総合討論」という時間が、一番最後にあったりするのですが、講演者の時間オーバーに押されて無くなってしまったり、各講演を一生懸命聴くのに疲れて頭が回らなかったりで、なかなかうまく楽しめないことが多々あります。 その第一条件をクリアしている場なのに議論の輪に入れない、ということもあります。内輪のゼミなど、時間はたっぷりあって、延々と議論が続く、ということはよくあると思います。でもそいういうときにありがちなのが、発言者が偏って、発言出来ない人と議論している人の温度差ができてしまうこと。 これってしょうがないことなのかな?発言できない人が発言できるように経験と知識と技術を磨くしかないのかな? 長い間、僕はどんな議論でも発言できるようにと努力しつつ、議論に参加できることも増えましたが、それでも駄目なときは駄目です。しかも、発言したからといって、「楽しい議論をした」という充実感が得られるとは全然限らないわけです。 しかしふと気付いたのが、飲み会で自然に起こる議論って、とても楽しくて有意義なことが多い、ということ。アルコールがなくてもこれが研究集会なりの場で上手く実現できたらいいのに、とよく思うようになりました。 アルコールがないとやっぱり無理? 当然だけど、答えはNOです。飲み会で起こる議論が楽しいのは、アルコールのせいじゃないと思います。 「楽しいのは、話す相手の顔が見えているから」だと思うのです。 大人しくて議論の場で発言するのが苦手な人も、話す相手の顔が見えていれば、自分の素直な意見や見解が自然に出てきます。 ならば、楽しい議論を作るには、そういう状況を作ればいいのでは? 大人数が集まっているときも、発表者VS聴衆全員、という形ではなく、発表者も聴衆も合わせて、数人ずつのグループにして、相手の顔が見える状況で議論をする、つまり「グループ討論」です。 発表者の内容についてどういうところが疑問だったかでもいいし、発表者が提示した問いについてそれぞれの意見でもいいですが、4-5人の単位で話すと全ての人が無理なく発言でき、とても満足感の高い議論ができます。グループ討論で持ち上がったことを、各グループの代表が簡単にまとめて全体に報告すると、そこからもまた自然に議論ができます。 グループの分け方は、ランダムでもいいし、話題によっては、肩書きの近い人同士でまとめても面白いと思います。 僕の経験では、1グループ4−5人がいいと思います。 大人数が集まったときの飲み会でも、自然に会話するメンバーがまとまっていく単位を見ていると、面白いことに大体4−5人なのです。 なので結構普遍的に「議論に適した人数が4−5人」なんじゃないかな、と。 そう思い始めてから、自分が幹事や発表者になった集まりについては、内輪のゼミから研究集会などいくつかのところで試して外したことがありません。 みなさんも是非試してみて下さい。

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