Pre-YMC観測期間中のMJO通過時に 劇的に発達したスマトラ西岸沖バリアレイヤーの形成過程


2017年度日本気象学会秋季大会 講演要旨

茂木耕作・勝俣昌己・米山邦夫・安藤健太郎・長谷川拓也 (海洋研究開発機構)

1. はじめに

2015年11月から12月にPre-YMC観測キャンペーンの一環としてスマトラ島西岸約55km沖合(南緯4度、東経102度、水深500-800m)で観測船みらいによる定点観測が行われた。当該海域では、継続的な日変化対流によって海洋表層の水深20mまでが極めて低塩分であり、強い表層の成層構造によって海面水温が上がりやすい。また、沖合200㎞ほどにある海嶺構造によって外洋と隔てられているため、流速が極めて小さい(0.2m/s以下)。こうした特徴の海域における大気海洋相互作用の具体的な過程はほとんど研究がなく、また、海洋モデルにおいても表現しにくいのが現状である。

Pre-YMC観測後半ではMJOの通過が捉えられ、同時に海洋の塩分成層によって形成されるバリアレイヤー(等温層深と等密度深の差)の劇的な発達が観測された。12月13日の24時間でバリアレイヤー層厚は5mから60mになり、17日までの5日間で最大85mまで急激に発達した。本研究では、バリアレイヤーの形成過程について、MJO到来前までの表層の淡水流入とMJO到来後の塩分成層の鉛直混合の影響を中心に調べた。

2. 結果

図1は、観測船「みらい」の定点における密度と塩分鉛直傾度の鉛直時間断面である。ここでは、10mを参照深度として等密度層深度(MLD、⊿σ(S, T+0.2℃)、破線)と等温層深度(ILD、⊿T=0.2℃、点線)で定義し、0-10mの表層にも強い成層があるため、10mと6mの密度差から表層淡水化指標(図1aの上部の棒)を設定した。

ILDの変動に注目すると、12月13〜17日までのMJO以外に、11月26〜30日と12月4〜7日の2回の大気擾乱に伴う深度増加が見られる。一方で、MLDはMJO以外ではほとんど変動していない。これは、参照深度とした10mよりもさらに浅い表層の淡水化によって強い塩分成層が維持されていたためだと考えられる。すなわち、MJO以外の弱い大気強制では、表層の温度成層のみが緩和されてILDは20mほど深まるが、塩分成層が解消しきらないためにMLDが深まらず、20mほどのバリアレイヤーが形成されている。

しかし、MJOの西風バースト(地表風速約10m/s)に伴う強い大気強制によって、表層の塩分成層も解消され、MLDがILDの一日遅れで深まっている。表層に強い塩分成層がある場合は、このMLDとILDの深まりの時間差が生じるため、結果的にバリアレイヤーの急激な発達が起こると考えられる。

そうしたバリアレイヤーの形成過程は、水平移流や水平流シアの小さい条件下で、鉛直混合が主要であったことと整合している。図1bは、塩分鉛直傾度時間変化項で、バリアレイヤーが厚くなる期間には、上層に負、下層に正のペアが現れている。これは、上層の塩分成層の緩和分を鉛直混合によってより下層へ輸送する過程と整合する分布である。さらに、淡水流量の正負の変動(図1b上部の棒)とも整合的であり、この海域の海洋表層が鉛直一次元的に大気に応答していたことを示している。

図1:研究船「みらい」のCTD(3時間毎) による深度時間断面図(a)密度(kg/m3)、(b)塩分鉛直傾度の時間変化(×10-1 psu/m/day)。(a)の上部は、水深6-10mの密度鉛直傾度(kg/m4、表層淡水化指標、右軸)、(b)の上部は、淡水流量(×10-1 m/day、降水と蒸発量の差、右軸で海洋に流入する成分を正)を示す。破線と点線は、水深10mを基準に0.2℃相当の密度差で定義された混合層、水温差0.2℃で定義された等温層。太い実線は、29℃の等温線で示されている。全ての変数は、潮汐変動を除くために24時間の移動平均をかけた。

3. まとめ

Pre-YMC中に捉えられたMJO通過時のバリアレイヤーの形成過程として、MJO到来前までの表層の淡水流入とMJO到来後の塩分成層の鉛直混合の影響を中心に調べた。MJOの西風バーストに伴う強い大気強制によって、ILDは一気に深まったが、表層の強い塩分成層があったため、MLDの深まりは一日遅れになり、バリアレイヤー層厚が増大した。こうした一連の過程は、現状の海洋客観解析では、表層の鉛直分解能が不十分なためにうまく表現されていない。また、観測解析においてもMLDやILDの参照深度10mとする場合が多いが、0-10mの層における成層の強さによって過程が異なることを考慮した解析が今後必要である。

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